わが髪二十一日

卯(う)の時ばかりに船出(い)だす。みな人々の船出づ。これを見れば、春の海に秋の木の葉しも散れるやうにぞありける。

おぼろけの願によりてにやあらむ、風も吹かず、よき日出で来て、漕ぎ行く。この間に、使はれむとて、付きて来る童(わらは)あり。それが歌ふ船唄、なほこそ国の方は見やらるれ、わが父母(ちちはは)ありとし思へば。帰らや。と歌ふぞあはれなる。かく歌ふを聞きつつ漕ぎ来るに、黒鳥(くろとり)といふ鳥、岩の上に集まり居り。その岩のもとに、波白く打ち寄す。

楫(かじ)取りの言ふやう、「黒鳥のもとに、白き波を寄す」とぞ言ふ。この言葉、何とにはなけれども、物言ふやうにぞ聞こえたる。

人のほどに合はねば、とがむるなり。
update:2010年01月30日